カタクリが消した道(笹倉山) |
笹倉の秀嶺たまゆら明らみて時雨来たれば空に虹見ゆ 原阿佐緒 [1]
仙台に住んでいると、北の方に低いけれども印象的な山々にすぐ気づく。ビルや丘の上からよく見える。国道4号線を北上し、仙台市を抜けた頃に左手にはっきりと見えてくる。「七つ森」と呼ばれる低い山群である。 |
道を間違えてうろうろしているときに、原阿佐緒の生地の看板を見つけた。そうだったのだ。情熱の歌人、原阿佐緒は宮床の生まれなのであった。冒頭の歌のほかに、もう一首、笹倉山を歌ったものがある。 美しく生まれしゆえのおみなごの不幸語れば雪蛍舞う |
カタクリの群落に道を阻まれたのである。カタクリはけっしてめずらしい花というわけではないが、初春の山で見るのはいつでも楽しいし、美しい。好きな花のひとつである。インターネットで球根を購入し、我が家の庭でも毎年、春先に数輪は咲く。原阿佐緒にもカタクリの歌があった。 汗ばみてわがのぼりゆく墓地下の土手に咲きつづくかたくりの花 [5]
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杉林を出れば快適な雑木林である。まだ葉が出ていないので、見通しが良くて気分がよい。早春や晩秋の山歩きで、見通しの良くなった林を歩いているとき、必ず思い出すことがある。
林の中は、まだ下草もほとんど生えておらず、すっきりとしている。Photo B のポイントを少し行くと、小さな尾根になって、笹倉山の頂上部が眺められる。写真も撮ったが、杉の混じる雑木林越しで、良い写真にはならなかった。新緑が萌え出すと、頂上は見えなくなるだろう。
頂上近くになり、カタクリが一面に咲いているのではないかと期待したが、葉ばかりで花はほとんどなかった。前の時は、歩くのが憚れるくらい咲いていたのに。 |
頂上の薬師如来のお堂に着いた(Photo C)。このお堂の後ろから登ってきたのである。お堂の後ろは開けた感じの林で、まえの時にはカタクリの花がたくさん咲いていたところである。
頂上には「大森薬師瑠璃光如来」と大書された紫地の旗が立っていた。笹倉山は大森山とも呼ばれる。たぶん、旧名称であろう。もしかしたら、七ツ森に加えられたときに、名称の整合性(7山すべてに倉をつける)のために変えられたのではなかろうか(根拠のない推測だけれど)。
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頂上をすぎて少し下ると、四阿(あずまや)が見えてくる。とても短いけれど、快適な尾根道である。平成5年に立てられたことを示す立派な扁額が、四阿につり下げられている。
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北に突き出た眺子ノ石展望台はごつごつとした岩山で、松が生えている。岩山に松、というのは水墨画に典型的な景色で、盆栽好きなどには耐えられない風景ではある。
姥坂を下ると、すぐに麓に広がる杉林に入る。緩やかで、静かで申し分のない坂道だが、やはり山歩きでは杉林は少し気が滅入る。むかし、斜度は小さいものの、眺望も変化もないブナの原生林を4~5時間歩きつづけたときとは別の種類の気落ちがある。
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杉林のなかに「日本刀「葉山丸」作刀の地 七ツ森観光協会」という白木、墨書きの表示が立っている。ということは、このあたりにはかつて人家があったということか。少なくとも刀工一族の家はあったのではないか。
8時40分に難波御門登り口を出発して、10時38分に御門杉登山口に到着。犬との朝の散歩時間のちょうど2倍、快適な散歩というところか。十分な年なので、このような山歩きで満足できたら、平穏で健康的な人生になるとは思うのだが。 何たることか。山歩きは漬物の話で終わるのである。
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