ブリコラージュ@川内川前叢茅辺 <花 2>

陽のカンナ

  しきりに頭に浮かびながら、どこにも収まらないままに忘れてしまい、また浮かんでくる、という繰り返しに悩まされるフレーズがある。「炎帝の祭せよ」と「陽のカンナ」は一つの俳句の1部だと思い込んで、あと2,3文字を加えるだけなので、思い出せそうな気がしていた。しかし、どうにも収まらないのである。それもそのはずである。

  老いしとおもふ老いじと思ふ陽のカンナ   三橋鷹女 [1]

  百日紅の花に炎帝の祭せよ     村上鬼城 [2]

  二つの句をない交ぜにして切り取って記憶していたのである。サルスベリ(百日紅)もカンナも真夏の花である。私には、炎天下で見る花の強いイメージは百日紅よりもカンナにあるようで、そのイメージにトラップされて抜け出せないでいたようだ。

  子供の頃の夏休み、友だちをたずねて農家の庭前に入っていくと、目立って迎えてくれるのはたいていカンナか、タチアオイか、ダリアのような背の高い花であった。真夏の炎天下、田舎の道を歩いて行くと遠くの農家で輝いているのはたいていカンナの花なのである。

 錦町公園に咲いていたカンナ
      (2006/8/27)

  しかし、17才で仙台に出てきてからは、カンナの花を見たような気がしない。どうにも記憶がないのである。そのあげく、妻と犬と散歩の途中では、
 「おっ、カンナだ。」
 「あれはグラジオラスよ。」

  鼻先で笑われるのだ。「最近、カンナを見ないね」ということは意見が合う。そんなふうに過ごしていたころ、仙台市内を自転車で走り回っている(どんな用事があるものか皆目見当が付かないのだが)妻が、カンナを見たという。錦町公園の東南の角に咲いているというのだ。

  
さっそく、犬と一緒に出かけてみた。煉瓦ブロックで囲まれた花壇の2辺の縁に沿うように、30本ほどのカンナが赤、橙、黄色の大きな花を咲かせていた。その前には丈の低い赤のサルビアとファリナセアと思われるブルーの花が整然と区画され、それぞれ満開に咲いていた。そのカンナの列の後ろに大きな看板があって、「犬のふんの後始末は飼主の手で 新しい杜の都仙台」と、犬連れの私は大いに威嚇されたのであった。興ざめの看板が入らないように写したのが、左の写真である。


錦町公園付近

  この角は、いくつかの細い道が出合うところでここだけが少し広くなっていて、その脇に花壇が作られている。南の本町側からの登りの坂道となっていて、その途中である。この出会いの西の角にレストランがあったはずだが、すでに看板も何もない建物になっていた。かつて私が昇進したときに、妻がここでお祝いをしてくれたのだった。窓際に席を取り、夕暮れ時の坂道を眺めながらの二人だけのワインは気分の良いものだったが、また来ることが果たせないままになってしまった。

 水の森公園のカンナ、公園内の
 道の脇に植えられている。
     (2006/9/3)



水の森公園、三共堤付近

  さらにその後、犬との散歩に水の森公園まで車で出かけた際に、三共堤の下にある公園広場に沢山植えられているカンナを発見した。発見というのは大げさだけれども、ずっと見ていなかったという思いにしてみれば、発見したという気分なのである。
  ところが、さらにさらに、朝の散歩のコースを変えてみたら、広瀬川にかかる澱橋と牛越橋の間の堤防沿いの花壇にもたくさんカンナが植えられているのであった。けっきょく、カンナを見たいと思えば、かなりの確率で見ることができるようだ。「見ようと思わぬ者には、目の前の花も見えないことではあるなぁ」などと古文解釈のような感想をもったのである。

   背の高いカンナは、狭い我が家の庭には植えられないとずっと思っていたのだが、カタログで銅葉のカンナが出ているのを見ると、銅葉が庭のアクセントになるだろうと自分を言いくるめて、注文してしまった。2株植えたのだが、1本は雑草取りのときに踏みつけてしまい、育ちそこねてしまった。
  カンナは寒さに弱いので冬は掘り上げて保存すべしと、いろんなところに書いてあるのだが、私の生まれた田舎は仙台よりいくぶん寒いはずで、農家のみんながそんな手当をしていたとは思えない。ガーデニングなどというような時代ではないのである。ということを理由に掘り上げはサボって、木くず、草くずを積み上げて防寒としたままである。おそるおそるというのは変だが、そんな気分で春を待っているところである。木くず、草くずは剪定した枝や草を園芸用電気粉砕器で細かくしたもので、不要になった枝や草の処理に重宝している。

(2010/3/18)

  1. 「わが愛する俳人 第一集」(有斐閣 1978年) p. 116。
  2. 「わが愛する俳人 第四集」(有斐閣 1979年) p. 52。

 庭のカンナ (2008/9/16)