ワサビの問題(黒伏山) |
黒伏山に登るきっかけは、船形山登山である。あるとき、また船形山に登りたいと思った。仙台に住む私は、宮後県側の(夕日沢コースを除く)4つの登山口それぞれから登ったことがあり、違ったコースを歩きたいと思って決めたのが、山形県黒伏高原から登る観音寺コースだったのである。ここの登山口までは、国道48号線、関山峠を越えればあっという間であり、長い林道を走らなければならない県内の大滝キャンプ場登山口などよりは近いのである。
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黒伏高原スキー場を右手に見ながら進むと、スキー場の東端の道向かいに、駐車場と登山口の案内看板(と入山届け箱)がある。車は村山野川のそばまで入れたが、駐車スペースが充分ではないので、スキー場向かいの駐車場に引き返して、そこから出発した。
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Photo D の付近から右手には、白髪山から黒伏高原スキー場までの展望が開ける。道はまもなく柴倉山と福禄山のあいだの鞍部に向かってやや急な上りになる(Photo E)。比較的小さな山では、頂上手前ですこし傾斜がきつくなって、ひょいと頂上に出るということが多く、連れ(イオ)はそれが分かっていて、頂上近くでは私より必ず先行して急ぐのである。Photo E はまもなく頂上だと誤解したイオが張り切りはじめた瞬間である。
柴倉山は、いずれ「南御所山縦走コース」を辿ってみたいと思っているので、左へ折れ、福禄山へ向かう。分岐標識板は小さいけれど、鮮明なブルーの地に赤い矢印で描かれたよく目立つ立派なものである。標識には「福禄山0.5m」と書いてあってちょっとクスッとした。 |
福禄山の頂上はコースから少し入ったところである。コースからの眺望はあるが、頂上そのものは、灌木がちょうど目の高さくらいでそんなに眺望は良くない。ここで朝食とする。秋の朝の気持ちの良い陽ざしがあたる場所に座をつくって、一人と一匹は弁当を食べる。こういうときには登山者が来ないことを期待する。こういう食餌の場所に人が近づくと、イオは極端に怒るのである。仮設営のテリトリーを守ろうとするらしい。
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私はイオを「熊よけ」と考えているのだが、イオは私を運転手で、弁当運びで、そして熊よけもするボディーガードだと考えているらしいのである。 わが背後ひそとつけくるものあれば山の木の葉は色づきはじむ 永井陽子 [1] イオが不安そうに後を付いてくる見通しが悪い道も、その沿道は、木々の紅葉ばかりではなく、足もとのマイヅルソウの実の赤さ、ツバメオモトの実の青さに彩られていて飽きない。 それもすぐに眺望の良い、どちらかといえば崖沿いの道と呼べるような、稜線となる。こういう道になると、イオは私の前にさっと出て、得意そうに私を引いていくのである(Photo G)。 この道はアップダウンも少なく快適なコースだが、途中、崖の崩落が道の際まで進んでいるところがあり、雨の日や暗い時間帯にはだいぶ危険そうである。 福禄山から40分くらいで銭山山頂である。山頂で記念写真(Photo F)を撮るが、すぐ白森に向かう。
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銭山と白森のあいだはやせ尾根ではないが、いちおう緩やかな尾根道でである。眺望はよいが、道そのものには大きな変化はない。白森は遠くから見ても木々の背丈が低く、頂上からの眺めは良さそうである。
白森の頂上標がけっこう遠くから見える。連れは急ぎ足になって、私を引っ張る。少し暑くなってきて、記念写真も体半分日陰になる場所を選んでいる。地図では「白森」であるが、山頂標には「白森山山頂」となっていた。
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白森山頂はなかなか離れがたいのであった。蔵王連峰には雲がかかっているが、東の方、歩いてきた福禄山、銭山はもちろん一番向こうの船形山まで重なる山々が青く霞んで広がっている風景に惹かれる。
白森の頂上から黒伏山を目指して南に下っていく。黒伏山の北斜面に取りつくまでは、やはり気分のいい鞍部、稜線の道である。
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沢渡黒伏山の南壁の上にでると、急激に切れ落ちるキワに立つことになって、すばらしい眺望と恐怖とで気持がざわざわするのだった。黒伏山本峰の南斜面も急激に落ちているが、全面が樹木で覆われている(Photo O)。
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沢渡黒伏山の南壁からの眺めを堪能すると、今日の山歩きの楽しみはみんなこなしたような気になった。それで 沢渡黒伏山の西斜面の道を何となく急ぎ足で下った。
人消えて雑木かがやきすでに風 金子兜太 [3] まもなく林のなかの道は、大きな石が重なった上を走るようになる(Photo R)。Photo R' のような石組みが道なのである。連れの体はもちろん、私でも落っこちれば体半分は入りそうな空間が隙間を開けて待っているのである。大きな石だらけの川原を歩いた幼年の思い出にあるような、ちょっとした冒険心のようなものが湧いてくる気がする。
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岩が根のこごしき山に入りそめ山なつかしみ出でかてぬかも いくら早く蕎麦が食べたいからといって、駆け足で過ぎるのはもったいない林で、結局は、キノコも探しながらのゆっくりした歩きとなった。道沿いしか見ないキノコ狩りは獲物が少なく、2種類のイグチの仲間をいくつか見つけただけだった。4日前の白髪山から奥寒風山までの縦走往復では、ナラタケやヌメリスギタケなどそこそこの収穫があったのだが、林の性格が違うのでしょうがない。
駐車場にたどり着いたのは午後1時くらいである。日影で涼をとる連れをせき立てて、蕎麦屋に走る。
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