ブリコラージュ@川内川前叢茅辺 <食 1>

夏、三種のそうめん

   私は麺類が好きである。理由はとくにない。、あまり噛まなくても楽に食べられるからかもしれない。胃腸が弱くて、幼い頃から母親に軟らかいご飯ばかり食べさせられたせいかもしれない。とはいっても、そのせいで今でも柔らかさそのもののおかゆはあまり好きではないので、必ずしもそうとは言えないようだ。たんにものぐさということだろうか。40才で胃を切除してからは、腹ごなしのいいものと、なおさら麺類に傾いた。
  しっかりと噛むことが脳に刺激を与えるのだ、きっちりと噛まない食生活は脳神経の維持によくない、と悪口もよいわれるが、いまさらどうということはない。

  定年退職後、在宅の時は昼食はたいてい私が作るようになって、パスタも麺類に含めればほとんどが麺類の昼食である。
  とくだん、変わったメニューはないが、夏には夏の、お気に入りの「そうめん」の食べ方がある。

     【鮎そうめん】

  麺類の好きな私は、鮎釣りにも夢中である。鮎と麺、ということになれば「鮎そうめん」が定番ということになるが、鮎そうめんをおいしいと思って食べるようになったのはごく最近である。

   ずっと以前のことだが、京都では正月のお雑煮の出汁に焼干しの鮎を使うので送ってくれと言われ、もて余していた鮎の処分にもってこいだったこともあって、焼干しにして送ったことがあった。我が家でもその鮎の焼干しで正月の雑煮を作ってみたのだが、あんまり感動しなかった。
  仙台の雑煮は、仙台湾産のハゼの焼干しで作るのが伝統らしいのだが、それも試してみたが、1度きりで終わった。それで我が家の雑煮は、ずっと鶏出汁である。
  要するに、私は魚出汁が苦手なのである。鮎そうめんも30年くらい前に2度ほど試みてそれっきりだったのである。たぶん、あまり感激しなかったのだろう。

  それでも、5,6年前にまた試してみたら、結構おいしいのである。年齢と共に味覚が変わったのか、調理法が違ったためなのかよく分からない。以前、どんな風に味付けをしたのかも記憶にない。

〔鮎の処理〕 釣った鮎を遠くの川から運ぶときの処理法はいろいろ教えられたが、ベストだと思ったのが次のようなものである。オトリ缶(川で鮎を生かしておく容器)の水を少なくして、大量の塩を投入して鮎を絞める。その鮎をタモ網に移してタモ網をぐるぐる回すと、鮎のぬめりがきれいに取れるので、そのぬめりを水で洗い流して、クーラ-ボックスに氷詰めにする。砕氷には塩を混ぜて冷却能力を高めておく。
  実際には、たまにしかこんな丁寧なことはしない。氷もブロックの方が保ちがよいし、塩は忘れて出かけることの方が多い。釣り人は、釣ることに夢中で、釣った後のことはあんまり真剣に考えていないのである。

  地元の広瀬川で釣る時は、生きたまま持ち帰る。ほとんどは家の前で釣るので、川に沈めたオトリ缶から家までは2,3分である。そのときは、台所で生きた鮎に塩をふってうえで、ぬめりを取りながら絞めることになる。

  鮎のサイズは23~26cmくらいが多いので、一人1尾として、あらかじめ塩焼きにしておく。鮎は、ハラワタがおいしくて、栄養や薬効もあるとして、ハラワタは取らないのが「キマリ」のように語られる [1] が、我が家では「鮎飯」と「鮎そうめん」のときは、ハラワタを丁寧に取る。雑味をできるだけ抑えたいことと、できあがりの色合いもよい(濁りがない)からである。
  ヒレや尾の飾り塩もしっかりとして、できるだけ焦がさないようにする。これも細かな炭片のようなものが汁に浮かんでいるような状態を避けたいためである。

〔ダシツユ〕 ダシは、昆布とカツオ節でとる「一番だし」とする。麺類のつゆは、カツオ節より、サバ節などが入った混合節の方がおいしい
[2] のだが、鮎から出るダシを大事にしたいので、ここはカツオ節にして、しかも煮立てないであっさり仕上げる。
   味付けは、薄口醤油、日本酒、みりん(少々)、砂糖(少々)、塩(鮎にふった塩の分)でつける。私は甘いのが苦手なので、みりんと砂糖は、ほんの気持ち程度しか使わない(妻と義母は不満かもしれないが)。

   さらに、このツユにおろし生姜を少し加えて、塩焼きにしておいた鮎を煮ることで、ダシツユは完成である。粗熱を取って、冷蔵庫で冷やしておく。

鮎そうめん

上:鮎、薄焼き卵、大葉(青じそ)の千切り、刻み海苔、ミョウガタケと万能ネギの小口切り。

下:鮎、薄焼き卵、ナス、、シイタケ、刻み海苔、大葉(青じそ)とミョウガの千切り、万能ネギの小口切り、

 

〔具材〕 ダシで煮た鮎が冷えたら、食べにくい尾びれなどをはずし、三枚に下ろすような形で頭と骨も取る。23~25cmクラスの鮎の骨を頑張って食べる気にはとてもならない(食事は、なにかの修業でも精神修養でもないので、我が家では、ひたすら「楽に、おいしく」を旨としている。作法とか、キマリとかが嫌いなのである)。腹の小骨は残りやすいので、とくに丁寧に取る。
  その他の具材として必須なのは、細ネギの小口切りくらいである。私は、冷や麦やそうめんに薄焼き卵を使うことが多いが、単に薄焼き卵が好きなだけである。
  大葉やミョウガは、夏の味として加えている。妻は大葉が異常に好きなので、妻のご機嫌取りもあって、必ず使うようにしている。とくにキュウリを具材として使う場合は、大葉がよく合う。
   他にナスとか、シイタケ、シメジなども使う。その時は、冷やす前のだし汁で煮て、汁とは別に冷やしておく。

     【冷や汁そうめん】

  「冷や汁そうめん」は、最近の大発見の一つである。NHKの料理番組で放送したらしい奥村彪生さんのレシピをネット上で見つけたのである [3]
「冷や汁」は、ずいぶん前に漁船上での漁師料理としてテレビ番組で紹介されたことがあって、生味噌を冷水に溶かして、新鮮な刺身を乗せたご飯にかけて食べるものだということは知っていた。それのそうめん版である。
  これが実においしいのである。手順などを実際にテレビで見ていたら、さらにおいしく作れるのではないかと思うと、幾分残念な気がする。しばらく前から、面白いテレビ番組がほとんどなくなって、かなりの頻度で料理番組を見るようになっていたのに、これは見逃してしまったのだ。

冷や汁そうめん

上:
レシピ通りの具を乗せて。

下:
レシピ通りにトリを加えて。

〔ダシツユ〕 レシピでは煮干しでダシを取ることになっているが、私は煮干しダシがすこし苦手なので、昆布と混合節でとった。味噌味なので、少し濃い目になるようにする。混合節には煮干しも少し入っているので、レシピからそんなに遠い味はなっていないだろうと思う。
  粗熱を取ったダシに味噌を溶き入れる。レシピでは「淡色味噌」となっているが、これも「仙台味噌」のすり味噌に代えている。

〔具材〕 
具としてはレシピ通りに、(1)キュウリの薄い小口切りを塩でもんで水洗いしたもの、(2)トマト、(3)ワカメ、(4)大葉(青じそ)の千切り、(5)粗いすりゴマ、(6)ミョウガの千切りをだし汁に加えて、全体を冷やしておく。
  具としては、タンパク質がないので蒸し鶏を裂いて加えてみたが、これは問題なくおいしい。他に、上のだし汁の一部で煮たナスやシメジなどを加えても問題ないと思うが、実際にいろいろやってみたところ、暑い夏にはレシピ通りの方がさっぱりとしていてよかった。

     【田舎そうめん】

  これは、私が幼い時から食べていたもので、妻が私の田舎で習い覚えて、我が家でも作るようになったものである。それで、妻と私はこれを「田舎そうめん」とか「田舎うどん」、あるいは「田舎温麺(うーめん)」と勝手に呼んでいるものである。ごく簡単な家庭で作る麺料理で、お盆や彼岸で肉や魚を食べられない時に作る簡便な精進向けといったものである。
  実際に使う麺は、そうめんに限らない。私の田舎では、もっぱら乾麺のうどんを使い、季節に応じて暖かいツユうどんであったり、冷たいツユうどんであったりした。我が家では、乾麺のうどん(冷麦も含めて)、そうめん、温麺(うーめん、宮城県白石市近辺で生産される細い麺)のどれでも作る。

   白石特産の温麺(うーめん)には、「おくずかけ」という食べ方があって、田舎そうめんのツユを柔らかい葛餡にしたものである。片栗粉を加えるかどうかの違いだけで、具材はほぼ同じである。
  宮城県北部の私の田舎では乾麺のうどんを「田舎」風に、宮城県南部では「白石温麺」で「おくずかけ」として、どちらも精進の時の食事として食べられてきたものではないかと想像している。
  
  この「田舎そうめん」(我が家では「田舎うーめん」になることが多いが)は、長いこと妻が作り続けてきたもので、今でもこれは妻が作る。私はその変形バージョンとしての「おくずかけ」(うーめん)をもっぱら作っている。
  「おくずかけ」は暖かいうーめんの食べ方で、夏の冷たいそうめんの食べ方ではないのだが、ダシツユの作り方は途中まではまったく同じである。

〔具材〕 精進の時の食べ方なので、魚や肉は使わない。必ず入るのが油揚げである。油揚げは湯通しして3cmほどの千切りに。戻した干し椎茸、ニンジン、ナス、インゲンなども同じようなサイズに切っておく。ゴボウをいれる場合は、ささがきにして水にさらしておく。
  干し椎茸の戻し汁は、後でダシツユに使う。直前になって作ろうと思いついた場合には、干し椎茸を戻す時間がないので、生椎茸を使うことがよくあるが、ダシツユのことを考えると干し椎茸の方が結果はよい。

〔ダシツユ〕 ダシは、昆布と混合節でとり、干し椎茸の戻し汁を加える。味付けは、薄口醤油、日本酒、みりん(少々)、砂糖(少々)でつける。好みにもよるが、私はおろしショウガを少し加える。ただし、つけ麺として食べる場合は、あらかじめ加えず、おろし生姜を添えて出す。

   甘いのが苦手な私は、やはり、みりんと砂糖の入れ方には気をつける。砂糖は入れないことの方が多いが、かといって、甘みがゼロではおいしくない。「甘さ」もおいしさの構成要素として必要なのである。そう思って使ってみると、失敗することが多い。「甘さ」に対する受容域の狭さが問題のような気がする。

  このダシで、準備しておいた具材をいっしょに煮て、(1)片栗粉でとろみをつければ「おくずかけ」、(2)片栗粉を入れずにそのまま暖かいうどんツユに、(3)冷やして冷たい「田舎そうめん」に、とその時々に応じて、その後の処理は異なる。

  冷たいツユそうめんとしてたべるときも、つけツユとして食べる時も、好みに応じて、万能ネギの小口切り、大葉(青じそ)の千切り、刻み海苔、おろし生姜、ミョウガの薄切りなどを添える。

田舎そうめん

上:
冷たいツユそうめんとして。

下:
つけ麺として。

具だくさんの
  「おくずかけ」

具材:油揚げ、干し椎茸里芋、人参、牛蒡、インゲン、ナス、シメジ。
麺:白石温麺。

 


〔即席のごまかしダシツユ〕
 
「鮎そうめん」や「冷や汁そうめん」では無理であるが、醤油が主体のダシツユの場合は、市販品の出来合いで即席にやっつけてしまうこともある。ただし、市販品のいわゆる「めんつゆ」を薄めるだけ、というのでおいしいと思えたことはない。濃いままだろうが
薄めようが、ダシの成分、塩分、糖分の配合比は変わらないので、どこまで行ってもだめなのである。
  最近、市販の「だしつゆ」、「白だし」(カツオダシがメイン)、「昆布だし」、「薄口醤油」、「濃口醤油」を適当に配分することで、なんとか普通に食べられるダシツユになることを発見した。味見をしながら、それぞれを少しずつ加えていくのだが、その時にクリアしなければならない点が二つある。
  ひとつは、どこのメーカーであっても「だしつゆ」、「白だし」、「昆布だし」
には(私の味覚にとって)過剰な甘みが加えてあって、しかもメーカーごとに割合が違っているようなのである。慎重に味を見ながら配分を決めないと、私の苦手な甘ったるいダシツユなってしまう。
  甘みを抑えようと薄口醤油を増やすと、塩をじかになめるような刺激が出て来てしまう。濃口醤油の方が醤油味らしくなるのだが、色が濃くなりすぎて美しくない。このへんの組み合わせが二つめの問題である。

  最近、妻が「どんな割合なの?」と聞いてくることがあって、「ごまかしダシツユ」を使い始めるようになった。それで「田舎うーめん」を作ったりすると、けっこうおいしい味になるである。私が作るのに比べれば、上品な感じがする。人格が料理の味に反映するなんてことはないと思うし、「おいしい料理を作る人に悪い人はいない」などという戯れ言をこれっぽっちも信じてはいないが、「あんたの料理はそれでそんなにおいしくない」と言われれば、反論する根拠はさしあたって私にはないのである。

(2011/11/14)
  1. なぜか「鮎の食べ方」について講釈する人はたくさんいて、私が鮎釣りを始めた頃、つまり人に教えを請うていた頃、「釣り」ならぬ「食べ方」の講釈に閉口した記憶がある。「鮎はハラワタなしでは、鮎と言えない」、「骨ごと食べられないのは大人じゃない」、「骨のぬき方で料理通かどうか分かる」などなど。もちろん、それぞれの魚にはそれぞれにふさわしい食べ方があることはもっともだが、たかが魚の食べ方ひとつ、私はこれまでずっと、その場、その場でそれにふさわしいと思われる食べ方を「自分で考えて」、好きにやらせてもらっている。
  2. 江原恵「食通以前」(講談社 昭和52年) p. 167。
  3. NHK「みんなの今日の料理」(講師:奥村彪生) http://www.kyounoryouri.jp/