ブリコラージュ@川内川前叢茅辺 <食 2>

牛蒡のペペロンチーノ

  このごろ、ゴボウ(牛蒡)はほんとうにおいしい食材だと思う。幼かった頃、あるいは若かった頃、ゴボウは嫌いではなかったが、とくに好きな食べ物でもなかったはずなのに、気がついたら好きになっていたという感じである。年を重ねると共に、少しずつ少しずつ好きになってきたようだ。

  ゴボウは典型的な日本の食材だろうと思っていたし、今もそうだと思っている。私が10代の頃、「戦場にかける橋」というアメリカ映画があって、その映画の中か、映画をめぐる話題をめぐってか、もう定かでなくなったが、太平洋戦争中の日本軍の捕虜収容所の食事にゴボウが出て、「日本軍は捕虜に木の根を食べさせる」、食事でも捕虜虐待を行っていたと英米人に誤解されたのだ、という話があった [1]。そんな話を聞いて、なおさらゴボウは日本人しか食べないものだと思ったものだった。

  おいしくて簡単なパスタの食べ方はないものか、とネットでうろうろしていたら、「ごぼうのペンネ」というレシピを見つけた。私にとっては、ゴボウを使うパスタというのは後にも先にもこれがたった一つのレシピであった。
  レシピは、「フーディーズTV」のHPにのっていて、「平野由希子のデイリー・キッチン」という番組で放送されたものらしい [2]。「フーディーズTV」は料理番組専門のチャンネルで、だいぶ前からかなりの頻度で見ているのだが、時間を決め、番組を決め、システマティックに視聴する習慣というものがないので、これも見逃している。

  さっそく作ってみた。もちろん、レシピ通りである。 (1)EXVオリーブオイルににんにく、唐辛子のみじん切りを入れて弱火で炒める。 (2)1cm幅に切ったベーコン、斜め薄切りにして水さらししたゴボウを加えてさらに炒める。 (3)醤油で香りづけをしてから、ゆでたペンネを加える。ゴボウを使うことと醤油を使うことを除けば、パスタ作りのごく普通の手順である。

  味は問題なくおいしかったのだが、これを食べる側に問題があった。我が家の食人口の構成は、私、妻、妻の母(初めての「ごぼうのペンネ」のときは104才であった)の3人だけである。総入れ歯の義母は、もともとフジッリとかコンキリエ・リガーテのようなショートパスタはあんまり喜んでは食べないのであった。ペンネならすこしは食べやすいだろうと思ったのだったが、残念ながら途中で投げ出されてしまった。

   ペンネが問題なのだろうという推測を前提に、次はペンネを1.4mm の細いスパゲッティに代えてみた。このとき、もともとのレシピにも変更を加えた。少なくとも私と妻は、オリーブオイルとニンニクと唐辛子だけのペペロンチーノがかなりの好みなのである。それで、ベーコンと醤油をはずした。単に、ペペロンチーノにゴボウを加えるだけという料理概念に変更したのである。つまり、野菜のパスタではベーコンやアンチョビで味を調えるのが普通だが、ペペロンチーノではそれがない。ゴボウが和食特有の食材だと考えれば、醤油の使用は至極当然なのだが、ペペロンチーノなのでニンニク、唐辛子、塩、コショウだけで済ませることにしたのである。
   下の写真がその時の「牛蒡のペペロンチーノ」である。

牛蒡のペペロンチーノ

ペンネを細目(1.4mm)のスパゲッティに代えて。

 

  残念ながらこれも義母には不評であった。ペンネも問題だったかもしれないが、薄切りにしたゴボウもだめだったのである。いやむしろ、ゴボウの方がだめだったらしい。チーズソースやトマトソースのペンネは、義母も食べていたのだから。

   実は、私にとってもいくぶん問題があった。味はまったく問題ない。じつにおいしいのである。だが、舌触りというか、口中における触覚が気になるのである。パスタとゴボウをいっしょに噛んでいると、ゴボウだけが口に残る。ゴボウとパスタの物理的な性質にギャップがあるということである。
  ゴボウだけを食べれば、それはおいしい。パスタだけを食べれば、それはおいしい。しかし、二つをいっしょに口に入れるのは、混じり合ったおいしさを味わうためなので、分離してしまうのは避けたいのである。

  次に試みたのは、ゴボウを千切りにすることである。ゴボウが細かくなった
ことで、義母は問題なく食べられるようになった。ところが、妻から「ゴボウを食べた気がしない」と不平が出た。私も同感である。ゴボウの風味だけという感じで、物足りないのである。じつにわがままな話だが、パスタとゴボウの堅さの差が気になっての変更にもかかわらず、今度はゴボウの歯触りが欲しいのである。

  そこでやっと思いついたのである。ゴボウと言ったら「ささがき」である。不思議なことに、「ゴボウをパスタに」と考えていると和食固有の「ささがき」のイメージはどっかに飛んでしまっていたらしい。

ささがき牛蒡のペペロンチーノ

今はずっとこのパターンで。

  「ささがき牛蒡のペペロンチーノ」となって、私と妻は大満足である。しかし、義母の問題は逆戻りしてしまった。お手上げである。

  結論。
「牛蒡のペペロンチーノ」は、義母用の食事とは別に作ること。

  その後、「牛蒡のペペロンチーノ」は、かなりの頻度でリクエストされるほどの妻のお気に入りになった。その時には、妻が義母の食事を用意し、私がパスタを作るのである。
  「牛蒡のペペロンチーノ」は、定番の昼食になりつつある。じつに簡単な料理で、じつに満足できるのである(ワインの白を添えれば、なおさら)。

(2011/11/17)


  1. 牛蒡を食事に出したからといってそれは捕虜虐待にはあたらないと言うことはできるが、「捕虜虐待」そのものがなかったと言いたいわけではない。
  2. 「フーディーズTV」は料理番組専門チャンネル(http://www.foodiestv.jp/)。ただし、HPの大幅な改編があって、2001年11月17日現在、このレシピのページにたどり着けない。